柏書房株式会社KASHIWA SHOBO

「役に立たない」研究の未来

「役に立つ」ってなんだ? 「学ぶ」ってなんだ? 科学とお金と私たちのこれからについて、最前線の研究者たちとともに考える!

定価
1,650円(本体 1,500円)
刊行
2021/04/09
ISBN
9784760153480
判型
四六判
ページ数
216
ジャンル
自然科学・建築

内容・目次

内容

★第54回緑陰図書(高等学校部門)選定★


ほんとうのイノベーションは、
ゆっくりと、予想外に始まる。


■内容
いつの時代も、研究者は未知に挑み、人類の発展に貢献してきた。


誰も解明していない謎を追う人。
社会課題の解決に努める人。
いつ、何の役に立つかがわからなくても、
未来へより多くのものを託そうとする人。


彼らの人生をかけた挑戦の積み重ねの先に、今の私たちの生活がある。
そして、その原点にはいつだって飽くなき知的好奇心があった。


しかし、日本では現在、運営費交付金の減少や
科学技術関係予算の過度な「選択と集中」などが原因で、
研究者が知的好奇心をもとにした基礎研究を行いづらい状況にある。
それゆえ、イノベーションの芽を育てるための土壌が崩れつつある。


令和の時代において、
研究者たちはどのように基礎研究を継続していくことができるのだろうか?
社会はどのようにその活動を支えられるだろうか?
そもそも、私たちはなぜそれを支えなければならないのだろうか?


本書は、各分野の一線で活躍する3名の研究者が、
『「役に立たない」科学が役に立つ』をテーマにした議論を中心に、
書下ろしを加えたうえでまとめたものである。


これからの「科学」と「学び」を考えるために、
理系も文系も、子どもも大人も、必読の一冊!


■目次
はじめに 科学とお金と、私たちのこれから(柴藤)


第一部 「役に立つ」ってなんだ?――プレゼンテーション編
 一 「役に立たない」科学が役に立つ(初田)
 二 すべては好奇心から始まる――〝ごみ溜め〟から生まれたノーベル賞(大隅)
 三 科学はいつから「役に立つ/立たない」を語り出したのか(隠岐)


第二部 これからの基礎研究の話をしよう――ディスカッション編
 一 「選択と集中」は何をもたらしたのか
 二 研究者にとって「アウトリーチ活動」とは何か
 三 好奇心を殺さないための「これからの基礎研究」


第三部 科学と社会の幸福な未来のために――対話を終えて
 一 科学と技術が、幸福な「共進化」をとげるための実践(初田)
 二 個人を投資の対象にしない、人間的な科学のために(大隅)
 三 人文社会科学は「役に立つ」ほど危うくなる(隠岐)


謝辞 「役に立たない」研究の未来(柴藤)


■装画
カシワイ


【著者紹介】


初田哲男〈はつだ・てつお〉
1958年、大阪生まれ。理化学研究所数理創造プログラムディレクター、東京大学名誉教授。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。東京大学大学院理学研究科教授、理化学研究所主任研究員などを経て、現職。専門は理論物理学。仁科記念賞、文部科学大臣表彰(科学技術分野)などを受賞。著書に『Quark-Gluon Plasma』(共著、ケンブリッジ大学出版局)、翻訳に『「役に立たない」科学が役に立つ』(監訳、東京大学出版会)などがある。


大隅良典〈おおすみ・よしのり〉
1945年、福岡生まれ。東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター特任教授・栄誉教授。大隅基礎科学創成財団理事長。東京大学大学院理学系研究科博士課程単位取得後退学。理学博士。自然科学研究機構基礎生物学研究所教授、東京工業大学フロンティア研究機構特任教授を経て、現職。専門は分子細胞生物学。「オートファジーの仕組みの解明」により2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞。


隠岐さや香〈おき・さやか〉
1975年、東京生まれ。名古屋大学大学院経済学研究科教授。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。博士(学術)。広島大学大学院総合科学研究科准教授を経て、現職。専門は科学史。日本学術会議連携会員。著書に『科学アカデミーと「有用な科学」――フォントネルの夢からコンドルセのユートピアへ』(名古屋大学出版会)、『文系と理系はなぜ分かれたのか』(星海社新書)など多数。


【編者紹介】


柴藤亮介〈しばとう・りょうすけ〉
1984年、埼玉生まれ。アカデミスト株式会社 代表取締役CEO。首都大学東京理工学研究科物理学専攻博士後期課程を2013年に単位取得退学。2014年に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」を立ち上げ、研究の魅力を研究者が自ら発信するためのプラットフォーム構築を進めている。大学院での専門は原子核理論、量子 多体問題などの理論物理学。


拡材POP
拡材POP


目次

はじめに 科学とお金と、私たちのこれから(柴藤亮介)


第一部 「役に立つ」ってなんだ?――プレゼンテーション編


一 初田哲男 「役に立たない」科学が役に立つ

 なぜ物質は安定なのか/知識は唯一、使えば使うほど増える資源である/物理学が生物学の「役に立つ」?/基礎研究の本質は「ゼロイチ」/科学者にとっての四つの「常識」/ディラック方程式の波及力/ヒッグス論文の引用回数/「役に立たない」知識の有用性/「有用性という言葉を捨てて、人間の精神を解放せよ」/「役に立つ」と「役に立たない」の間に境界はない/基礎研究を支える仕組み/「選択と集中」は「ゼロイチ」 と両立しない


二 大隅良典 すべては好奇心から始まる――〝ごみ溜め〟から生まれたノーベル賞

 日本人は「科学技術」という言葉を誤解している/「役に立つ」が目的の研究は、つまらない/人がやっていることはやりたくなかった/オートファジーと歩んだ三〇年/生きることのタームが短くなっている/「目標」だけが優先される社会


三 隠岐さや香 科学はいつから「役に立つ/立たない」を語り出したのか

 キケロが説いた「有用性」/王や貴族を「説得」するための言葉/「無限の効用」?/芸術における「無用の美」/「役に立つ」は、きわめて政治的な言葉である/トクヴィルの問題提起/「エスタブリッシュメント」への憎悪と「未知」への恐怖/「役に立たない」科学の居場所を増やすには/「持続可能」は希望が持てないことの裏返し?


第二部 これからの基礎研究の話をしよう――ディスカッション編


一 「選択と集中」は何をもたらしたのか

 ベーシックな予算なくして「選択と集中」はありえない/研究者にとって「運営費交付金」は最低限の生活費/国家戦略とマネジメントの話を混同してはいけない/科学者の自立と、市民が科学者になっていくこと/企業の意識が変わりつつある/日常を伝えることも、一つの説明責任/目標設定が低くなるという悪循環/「説明」が必要なものと、必要でないものとの違いとは/内にこもったフレクスナー、外に出たアインシュタイン


二 研究者にとって「アウトリーチ活動」とは何か

 科学者だけで考えないことが大事/同一化した集団の弱さ/まずは潜在層にアプローチ/かけ離れたジャンルと科学をつなぐ?/どういう関心から、人は研究に対して寄付をするのか?/研究者にも「自分は何をやっているのか」を考える場が必要


三 好奇心を殺さないための「これからの基礎研究」

 保証がないと前に進めなくなっている若者へ/研究者としての訓練が無駄になることなんて、ない/女性としての不安/人とは違う、自分だけの軸を持つこと/いくら体制を整えても、社会の意識が変わらなければ意味がない/第三の場所をつくれるか/果たして、それで好奇心は守れるのか/国の貴族的な役割を再検討する/短期的にすべきこと、長期的にすべきこと/人文系科学における「在野」の見直し/個人の活動をどのようにネットワーク化していくか/研究者目線で「おもしろい研究」を支援したい/企業の寄付文化を醸成する/個人単位でも、基礎科学を応援したい人が確実にいる/「科学者の坩堝」をつくる/ボトムとトップの両方から攻めていく/新しい活動だけでなく、すでにある活動との連携も意識する/まとめ


第三部 科学と社会の幸福な未来のために――対話を終えて


一 初田哲男 科学と技術が、幸福な「共進化」をとげるための実践

二 大隅良典 個人を投資の対象にしない、人間的な科学のために

三 隠岐さや香 人文社会科学は「役に立つ」ほど危うくなる


謝辞 「役に立たない」研究の未来(柴藤亮介)