柏書房株式会社KASHIWA SHOBO

日本のヤバい女の子 静かなる抵抗

昔話の女の子たちの心情をおもんぱかり、スルーされがちだった彼女たちの「抵抗」に耳をそばだてる新感覚エッセイ

定価
1,540円(本体 1,400円)
刊行
2019/08/22
ISBN
9784760151509
判型
四六判
ページ数
236

内容・目次

内容

【お知らせ】
08/26 イベント情報を本ぺージにアップしました。
08/27 「はじめに」「サンプルページ」を本ページにアップしました。


──
【概要】
引きこもっていたのに働かされるアマテラスオオミカミ、妊娠したら男に「俺の子?」と疑われるコノハナノサクヤヒメ、恋人と引き離されて石化する松浦佐用(まつらさよ)姫。見知らぬ男にさらわれる絵姿女房。日本の昔話や神話に登場する、理不尽な目に遭う「女の子」たち。


──でも、みんな本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。


著者は、怒りや悲しみをスルーされてきた昔話の女の子たちの素顔と本心に向き合い、彼女たちがどんなふうに「抵抗」してきたのかとことん語り合う。時に痛切で、時に痛快な、命を懸けた多種多様の異議申し立ては、現代の私たちにきっと力を与えてくれる。


優しくて、パワフルで、軽やかなイマジネーションが、千年前の女の子たちとあなたを自由にする新感覚エッセイ「日本のヤバい女の子」第2弾。女の子たちがわいわい語り合う4コマ漫画も収録。


【目次】
はじめに 降ろされた幕をこじ開けて、物語の続きを


Ⅰ どうしても欲しい女の子たち
CASE STUDY 1 オタクとヤバい女の子 鬼を拝んだおばあさん
CASE STUDY 2 年齢とヤバい女の子 辰子姫(辰子姫伝説)
CASE STUDY 3 略奪とヤバい女の子 鬼女 紅葉(紅葉伝説)
CASE STUDY 4 罪とヤバい女の子 八百屋お七(好色五人女)
BACK STAGE 1 【マンガ】愛の真理


Ⅱ 許さない女の子たち
CASE STUDY 5 ?とヤバい女の子 磯良(雨月物語)
CASE STUDY 6 後戻りとヤバい女の子 宇治の橋姫(平家物語 剣の巻)
CASE STUDY 7 運命とヤバい女の子 累(累ヶ淵)
CASE STUDY 8 身体とヤバい女の子 ろくろ首 およつ(列国怪談聞書帖)
BACK STAGE 2【マンガ】嵐の後


Ⅲ あれこれ言われる女の子たち
CASE STUDY 9 腕力とヤバい女の子 尾張の国の女(今昔物語)
CASE STUDY 10 嫉妬とヤバい女の子 山の女神(オコゼと山の神)
CASE STUDY 11 矛盾とヤバい女の子 北山の狗の妻(今昔物語)
CASE STUDY 12 期待とヤバい女の子 アマテラスオオミカミ(古事記/日本書紀)
BACK STAGE 3 【マンガ】性格の不一致


Ⅳ抵抗する女の子たち
CASE STUDY 13 意思とヤバい女の子 松浦佐用姫
CASE STUDY 14 新生活とヤバい女の子 絵姿女房
CASE STUDY 15 下ネタとヤバい女の子 尻を出した娘(鬼が笑う)
CASE STUDY 16 男とヤバい女の子 姫君(とりかへばや物語)
BACK STAGE 4【マンガ】仁義なき戦い


Ⅴ 運命を切り開く女の子たち
CASE STUDY 17 花とヤバい女の子 コノハナノサクヤヒメ(古事記/日本書紀)
CASE STUDY 18 友達とヤバい女の子 ちょうふく山の山姥
CASE STUDY 19 「あげまん」とヤバい女の子 炭焼長者の妻(炭焼長者[再婚型])
CASE STUDY 20 証明とヤバい女の子 山姥と百万山姥(能 山姥)
BACK STAGE 5 【マンガ】ばったり


あとがきマンガ メイキング・オブ・日本のヤバい女の子 静かなる抵抗
レポマンガ   日本のヤバい女の子・ゴー・大報恩寺
参考資料


【著者について】
はらだ有彩 Harada Arisa
関西出身。テキスト、テキスタイル、イラストレーションを作るテキストレーター。デモニッシュな女の子のためのファッションブランド《mon.you.moyo》代表。2018年5月、『日本のヤバい女の子』(柏書房)を刊行。新聞・雑誌・ウェブメディアで、小説、エッセイ、漫画を発表している。本書のイラストも担当。


公式サイト:https://arisaharada.com/
Twitter:@hurry1116
Instagram:@arisa_harada


【はじめに】


降ろされた幕をこじ開けて、物語の続きを


昔話の中には、理不尽な目に遭う女性がいます。彼女たちは奪われたり、捨てられたり、無理やり結婚させられたり、重責を背負わされたり、ナメられたり、敬遠されたり、ときには殺されたりします。
たとえば、「古事記」「日本書紀」に登場するコノハナノサクヤヒメは、妊娠したお腹を指して「ホントに俺の子?」と疑われます。同じくアマテラスオオミカミは引きこもるほど心に傷を負っても働かなくてはなりません。「絵姿女房」は会ったこともない男に攫われます。「松浦佐用姫」は社会に愛する人を奪われました。身体を揶揄されたり、一度ならず二度も命を奪われた女性たちもいます。
物語はなぜか、彼女たちの悲しみや苦悩をなんとなくスルーしたまま進んでいきます。
――そういう話だから。そういう風に決まっているから。


でも、みんな、本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。


怒っていいんだよ、と言われる、言える時代になってしばらく経ちました。いやだと思ったら声を出せる。運命だと受け入れず、拒否したり、怒りをあらわにできる。
それでも、怒るのは難しいことです。始めるのも持続させるのも体力を消耗します。「また?」と面倒な顔をされたり、その瞬間の表情を切り取って感情的だと言われたり、すぐに十分な手ごたえを感じられない場合もあります。怒りが薄れていくことに罪悪感を抱くこともあります。


昔話の中には、取り返しのつかない罪を犯してしまった女性もいます。裁かれる彼女たちの横顔を「うつくしい悪女萌え」と持て囃す視線はあれど、「どうしてそんなことをしたの」と聞く人は多くありません。生まれながらにして悪逆非道だったのか、それとも救済の欠如によって、悩み、後悔しながら人ならざるものに変わっていったのか。限界を迎えてしまう、もっともっと前に怒ることができていれば、破滅に向かわずに住んだのか。いずれにせよ彼女たちの罪の理由もまた、なんとなくスルーされたままです。
――女というのはそういう生き物だから。そういう風に決まっているから。


昔話を見渡して、ふと気づいたことがあります。


もしかしたら、怒りを表現する方法は一つだけではないのかもしれない。泣いたり、暴れたり、叫んだりしていないからといって、怒っていないとは限らないのかもしれない。
たとえば――


楽しく暮らすこと。サボること。
全然話を聞かないこと。真実を教えないこと。
ずっと忘れないこと。二秒で忘れること。
ここに立っていること。消えてやらないこと。
生きていること。生きていたこと。


静かだけど、これらも確かな抵抗の表明なのかもしれない。人々を尻目にニヤリとしている女の子を、あるいは気づかれずにがっかりしている女の子を、自分でも知らないうちに奮い立っている女の子たちを追いかけて、呼びとめて、「あの時」考えていたことを聞いてみたい。
これは昔話の女の子たちと「ああでもない、こうでもない」と文句を言いあったり、悲しみを打ち明けあったり、ひそかに励ましあったりして、一緒に生きていくための本です。




この本は、二〇一八年に刊行した『日本のヤバい女の子』を読んでいても読めるし、読んでいなくても読めるようになっています。なぜなら、私たちの物語はただすれ違っていくだけだとも言えるし、どこか遠くで繋がっているとも言えるからです。私たちはずっと同じ悩みを抱えているかもしれなくて、それは歯がゆいことです。だけど降りてしまった緞帳をこじ開けて、エンドロールをほじくり返し、勝手に語り続けられるということでもあります。


昔むかし、超生きていました。そして今も生きています。
めでたし、めでたし。
にする予定だから、ちょっと手伝って。
[了]


【サンプルページ】
「期待とヤバい女の子 アマテラスオオミカミ」より
「罪とヤバい女の子 八百屋お七」より「Ⅳ運命を切り開く女の子たち【マンガ】仁義なき戦い」より 


【刊行記念イベント情報】


[08/29大阪]
はらだ有彩×畑中章宏「日本社会はどんなけ“ヤバい”のか!?」
日時:8/29(木)19:30~
場所:ロフトプラスワンウエスト(大阪市中央区)
料金:前売り¥2,000 / 当日¥2,500(ともに飲食代別)※要1オーダー¥500以上
詳細・購入:https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/124661


 


[09/15東京]
はらだ有彩×ひらりさ「抵抗する私たちの毎日」
日時:9/15(日)19:00~
場所:B&B(東京・下北沢)
料金:前売り1,500円+1ドリンクオーダー/ 当日2,000円+1ドリンクオーダー
詳細・購入:http://bookandbeer.com/event/20190915b/


[09/28京都]
はらだ有彩&長田杏奈「ヤバみ上等! 日本の女の子、自尊心の抗争」
日時:9/28(土) 13:00~
場所:PHP研究所 京都本部7Fホール(京都市南区)
料金:3,500円
詳細・購入:https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/01myvj10ftrhh.html


[10/12東京]
尹雄大によるはらだ有彩への公開インタビュー

日時:10/12(土)19時~
場所:Readin’Writin’BOOKSTORE(東京・田原町)
料金:2,000絵m
詳細・購入:【準備中(近日中に更新予定)】


【更新】
08/26 刊行記念イベント情報掲載
08/27「はじめに」・サンプル原稿掲載